植物(花)や岩石鉱物など大地に根差した自然のものは何でも好きです。また人為であっても古いものには興味があります。東京都と神奈川県の境界ぐらいの郊外都市に在住。周辺の市街地と多摩丘陵を中心として、近場に残された自然を探検しています。時々丹沢山地、相模川流域、三浦半島などにも足を延ばしています。

トクサ

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街を歩いていて民家の軒先などで見かけるトクサ。濃い緑色のストローみたいな形をしており、とぼけた魅力がある。シダ植物門トクサ科で北半球に広く分布し、日本の一部でも自生が見られる。ツクシに似た穂(胞子嚢)がついていたので接写してみた。何とも不思議な印象だ。風化した石か化石みたいな質感である。

 

ここで想像が大過去に飛んだ。3億5千万年前の古生代石炭紀。地上は巨大なシダ植物の大森林におおわれていた。トクサの近縁であるロボク(蘆木)という種類は、高さ10mほどもあったという。

 

当時は盛んな光合成によるのか酸素濃度が現在より高く、自然発火による森林火災も多かっただろう。ロボクはプラントオパールと呼ばれるケイ酸物質(要するに石)を蓄積して表面を固くし火災から身を守った。その後絶滅するが、近縁の植物は次第に小型化しながら数億年を生き延び、現在のトクサやスギナ(ツクシ)に至っている。

 

トクサにもケイ酸物質が含まれており、紙やすりのように茎で刃物を砥(と)ぐことができる。トクサ(砥草)の名前の由来である。名前の説明が壮大になってしまった。そんなことを考えていると、街角のトクサが、林立するロボクの巨木に見えてきた。

 

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カワラナデシコ

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カワラノギクの近くに植えてあったもの。草丈は30㎝ぐらい。花の直径は4㎝ほどで、これも思っていたより大きい。秋が深まって淋しくなった河原で存在感を示していた。以前から探していたのだが、ついに自生のものには出会えなかった。

 

パールピンクの花びらの先が糸のように裂け、絶妙にウエーブがかかっている。突き出した雌シベ(花柱)は先端が2本に分かれ音符のような面白い形をしている。花びらの基部に短い毛がある。おかしな言い方になるが作り物めいている。花期は7~10月。何とか間に合ったようだ。

 

ナデシコ科の多年草秋の七草の「なでしこ」とはこの種を指す。日本の本州以南の山地や河原に広く分布する。「撫子」と書き、可憐な花を意味する。ヤマトナデシコ大和撫子)というとお淑(しと)やかなイメージがあるが、この花はまさにナデシコジャパンだ。凛(りん)として強い。日本を代表する花の一つである。

 

「カワラ」という名がつくだけに日照を好む。そのため周辺の環境に背の高い他の草が生えてくると生育が難しくなる。今は河原にも背の高い外来種が増えてきているので、棲みにくくなっているのだろう。栽培種はあるが、自生のものは絶滅危惧とまではいかなくても減ってきているのは確かだ。

カワラノギク

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多摩丘陵多摩川相模川にはさまれている。どちらも大きな川だが、日本でもほぼその河原にしか見られないという植物がある。カワラノギク(河原野菊)である。と言っても絶滅もしくは絶滅寸前だ。玉石がゴロゴロしているような氾濫原が生育環境なのだが、今は水利開発でほとんど失われているためである。環境の悪化や外来種の侵入などもあるかもしれない。

 

相模川で公園内に保護されていると聞いて見に行った。大きめの石からなる河原の一部に自然のままの林があり、小道を抜けていくと空き地があってこの花が満開であった。地面の石が分かると思う。こんなところにと驚きである。

 

草丈は50㎝~1mで、花は径4㎝ぐらいあり、思ったより大きい。色は薄紫でほとんど白色のものもある。資料では花びらはきちっとした菊の形をしているが、この場所のものは少しヨレている。それも野趣があってなかなか良い。夢中になって写真を撮った。

 

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かつては河原全体に群生が見られたという。しかし日照こそ豊富でも、暑さ寒さは強烈で、一旦増水すると流されてしまう独特の生態系である。一度壊れると再生は大変だ。数か所で保護育成が試みられているそうだが難しいらしい。近場の住民(東京神奈川だが)にとってはオンリーワンの存在である。大切にしなければ。

アラカシの記憶

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2年ぶりに故郷の関西に帰り墓参りをしてきた。山の上の墓苑なので、周囲にあまり人の手の入っていない雑木林がある。足元にドングリが落ちていたので見上げるとこの木があった。巨木である。そういえば子供の頃拾って遊んだのはこの種類の木だった。

 

関西でカシノキといえばこのアラカシ(荒樫)である。独特のツヤのある葉が緩く波打ち、やや粗い鋸歯(きょし、葉の周りのギザギザ)が目立つ。この特徴が名前の由来だ。実(み)はごく普通のドングリだ。

 

今住んでいる南関東ではシラカシ(白樫)が主のため、関東地方出身の方は、これがカシノキと言われると少し奇異な印象を受けるのではないかと思う。シラカシは葉が一回り小さく鋸歯が目立たない。葉の裏が白っぽく、幹もきめが細かくて暗い林の中では白く見える。一方、近場ではアラカシは家の周りに防風林のように並んで植栽されているのを見ることが多く、巨木は見たことがない。

 

墓掃除をしながら、子供の頃父と近くを歩いたことを思い出した。その時の楽しさと共に、アラカシのドングリや葉の感触が蘇ってきた。

街の草黄葉(くさもみじ)

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民家の前で見かけたヤマノイモだ。葉はきれいに黄色くなり、大きなムカゴが付いている。土の中のイモまで想像するとこれも実りの秋を感じさせるものである。この家の人は育てるのがお上手のようだ。

 

ヤマノイモ科。別名ヤマイモ、ジネンジョ(自然薯)。日本原産で東アジアに分布するつる性の多年草である。花期は夏で、冬には地上部は枯れるが、残った地下のイモから翌年芽を出す。ムカゴは実(み)ではなく、葉の脇から出た芽が栄養をため込んで種子のような役割をするものだ。

 

最近近場の野山で見るのはよく似たオニドコロばかりだ。黄葉はするが、イモは食べられずムカゴもつかないので興味がわかない。ヤマノイモは好む人が多いので、自然のものは掘り取られて近場からは少なくなってしまったのかもしれない。

野草の紅葉

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そろそろ山沿いなどでは木々の紅葉が始まっている。足元の草の方は花の季節が終わりかけて枯れたものが目立ち、寂しい風情(ふぜい)である。しかし野草の中にも紅葉するものがある。

 

画像はイヌコウジュである。草丈は40~50㎝。全国に分布するシソ科植物だ。低山の道路沿いに紅葉した群落を見つけた。昨年の9月末に花を紹介したが、あの頃は葉や茎は緑色だった。花は2,3輪ずつ咲き、終わるとガクが4㎜程に伸びて少しずつ赤紫色を帯びてくる。今は株全体がみごとに染まっている。

 

このような景色を草紅葉(くさもみじ)というそうである。木々の紅葉に先駆けて始まり、本格的な秋の訪れを告げるものだ。下の画像は枯れ残っていた花で、紅葉よりも目立たない。

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くすんだノギク

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秋の郊外散歩で目を楽しませてくれる草花。主役は様々な野菊である。いたるところで咲いていて秋らしい風情(ふぜい)を醸し出す。近場の丘陵地では主にノコンギクとシロヨメナで、画像は後者である。雑木林の中の道沿いなど日陰に多い。

 

9月末から咲き始めてそろそろ終わりかけで花がくすんでいる。葉も枯れたり千切れたりしてみすぼらしいが、毅然(きぜん)としたたたずまいは変わらない。これらの花には澄んだ空気感がある。道を曲がってパッと目に入ると嬉しくなってしまう。

 

そろそろ黄色いキク科の花が目立ってくる。丘陵地ではヤクシソウ、平地ではセイタカアワダチソウである。これらは晩秋まで残る。外来種であるセイタカアワダチソウはかつて非常に多かったが最近はそれほど見かけない。年月を経て日本の野草の一員として適応したのかもしれない。