前回の続きで、水辺のもの以外の植物を見ていく。
牧野富太郎が94歳で亡くなったのは1957年(昭和32年)で、その頃の石神井池の周辺はまだ田畑や雑木林が広がっていたと思う。公園の周辺には昔の自然環境やかつての人々の営為の名残と思われる植物が残っている。
ヤブラン(画像上)
キジカクシ科。今の時期、林の中や林縁で一番見かける日陰の花。昔の武蔵野はどこまでも雑木林が続き、この花がみられただろう。
ヤブタバコ(画像下)
キク科。公園に隣接した雑木林の薄暗い林縁で葉を広げていた。草丈は50㎝ぐらい。葉の根元に多数の花びらのない花を付ける。葉がタバコに似て薮に生えるというのが名前の由来。確かにタバコ植物の葉はこんな感じだ。
イノコヅチ
ヒユ科。これもあまり日の当たらない林縁に多い。ヒカゲイノコヅチともいう。日向に生える種類もある。いわゆる引っ付き虫で知らぬ間に服につけてしまった人も多いだろう。
ニホンハッカ
草むらの中の白い花。日本在来種のミントだ。かつては換金作物として栽培された歴史がある。
熨斗蘭。白い花が祝い袋のノシに似ている。ランではなくキジカクシ科。関東以西の林下に生える。これも草むらに埋もれていた。耐陰性が高いので庭に植えられる。冬にはルリ色の実も楽しめる。
ヤブマオ
かつては茎から繊維を採って糸を紡ぎ衣類の原料になった。カラムシと近縁のイラクサ科の一種。葉が対生なのが特徴。古い民家の近くで大きな群落をつくっていることがある。
タイアザミ
同時期に咲くノハラアザミとは総苞片(花の下のふくらみ)が反り返る、葉が茎を抱かないなどの違いがある。手に持つと葉のトゲが痛い(い「タイ」)というのが名前の由来とのこと。
キセワタ
公園のはずれに小さな植物園があり、マイナーな植物が集められている。これはシソ科の多年草。オドリコソウに似た感じである。全国の山地や丘陵地に分布する。長い毛が多く、花に着せる綿に見立てた「着せ綿」が語源だ。
スズムシバナ
これも植物園のもの。画像は露出の関係で色が飛んでいるが、きれいな紫色の花だ。キツネノマゴ科。花期は9月~10月上旬。名前は鈴虫が鳴く頃の花という意味だろう。近場では自生はないようだ。