(オニユリ 自然公園の遊歩道)
ある日のこと、うちの狭い庭の片隅に植木鉢のカケラみたいなものが地面から顔を出していることに気がついた。掘り出してみると、手に収まるぐらいの大きさの土器片であった。泥を洗い落すと独特の縄目模様が現れ、縄文土器だとわかった。
奇妙だったのは、全体が恐らく雲母片であろうキラキラした粉末で覆われていたことである。こんなものは見たことがない。庭木の根本に置いておいたら、そのうち忘れてしまった。
庭に異変が起こり始めたのはその頃からである。先ず翌朝、芝生が溶けるように枯れてしまった。霜が降りるような季節ではないし、病気や害虫ではなさそうだ。誰かが除草剤か何か撒いたのかとも思ったが、枯れたのは芝だけであった。
次は、庭木のヤマモモであった。きれいな赤サンゴ色の実がなるのだが、植えて10年以上、一向に実がならなかった。それが突然実をつけた。それも大量に。これは嬉しいことなのだが、なぜ急に実をつけたのだろう。
さらに、プランターや庭に植えた花なども枯れてしまった。そして、ツタのような植物が勝手に生えてきた。仕事が忙しくて放っておいたところ、そのうち庭中を覆うほどはびこってしまった。
そこで、一念発起して休みの日に庭の大整理をすることにした。半日がかりでツタを全部抜き、庭木も刈り込んで、ようやくすっきりした。ツタの下になった植物はほとんど枯れていた。
大汗をかいたので休んでいると、ちょうど夕日が沈むところであった。ふと気づくと、ヤマモモの根元にあの土器片が見えた。夕日が当たってキラキラ光っていた。しばらく眺めていると、不思議な気分になった。土器を取り上げると、以前それを見つけたあたりにそっと埋めた。
その後は、奇妙なことは起きていない。
ひょっとするとこの縄文土器には呪力(じゅりょく)があって、外来の植物を駆逐し、日本古来の植物に恩恵を与えたのかもしれない。あれ以来、庭に芝や外来種の花は植えていない。殺風景にはなったが、庭の植物は元気である。