(白花のキキョウです。ちょっと怪しいものを感じる。)
小田急小田原線沿線の街は、現在は明るくオシャレな場所であるが、一昔前は人気(ひとけ)が無くて寂しいところも多かった。駅も長年の人いきれで薄汚れていた。交錯したであろう悲喜こもごもの様々な人生が染みついたように。
その駅は長い歴史を持つ街のもので、その分駅舎も古い。改札口から薄暗い階段を上ると蛍光灯に照らされた明るいホームになる。ホームはどこか昭和の雰囲気が残っていた。
少し前になるが、私はその街で働いていた。夕刻、その帰り道、いつものように駅のホームに上がっていった。一日の疲れを感じて足取りが重かった。ホームでは人の気配がしていた。
上がりきってから周りを見るとなにか変だ。ホームに人がいないのだ。移動したわけでも、電車が来て乗っていったわけでもなさそうなのに。そして何気なく、先ほど人の気配がしていたあたりに視線を向けた。
その時見えたのだ。黒い皮靴を履いた足先だけが…。 他にもう一つ、ハイヒールを履いたのもあったような気がする。一瞬凍り付いて数秒固く目をつぶり、そっと目を開けると、そこには何もなかった。
その時新たに階段を上がってくる人があり、そのうち電車も来て、いつものホームの光景に戻った。
私は何を見たのだろう。何かの事件がそこであり、その時の関係者の強い思いがそこに残ったのか…。今思っても謎である。