外に出ると強烈な日差しが眩しい。見上げると、青い空に入道雲がムクムクと湧いていた。正式には積乱雲というが、昔それを体感する経験をしたことがある。
8月にヨーロッパ大陸を飛行機で横断した。広大な陸地には雲一つなかったが、機内のTV の天気図によると行く手に長大な寒冷前線が横たわっていた。冷たい気団と暖かい湿った空気の境目で、積乱雲が発生する。要するに入道雲の帯である。そのうち白い雲の壁が見えてきた。
雲に突っ込んだ瞬間、真っ暗になり、一気に1000mも吹き上げられた。凄い上昇気流だ。窓には雹(ひょう)のような氷の塊がバシバシ当たり、機は大きく揺れた。イナビカリで照らされた機内で横に座っているアフリカ系の人が見えた。黒い人の蒼ざめた顔を見たのは初めてだ。数分で元に戻ったが、けっこう怖かった。
今は気象レーダーで検知して回避するそうである。当時のヨーロッパ系の航空会社は荒っぽかった。あの雲の中で何が起こっているかを知る貴重な経験であった。