丘陵地の雑木林に長い石垣があって、日陰で湿度が高いことからコケが付き、隙間の至る所からシダが伸び出している。今の時期残っているのはほとんどがヤブソテツで、所々にこのシダが混じっている。トラノオシダだ。左右10㎝くらいでごく小さい。葉も薄手で淡緑色だが、拡大するとなかなかの風格を感じる。
なぜだろうと考えてみると、グイっと反った葉を上下逆に見て、武士の兜の前立て(あのツノみたいな前飾り)を思い浮かべたようだ。調べてみるとシダ(羊歯)の前立てで有名なものとして、徳川家康所用のもの(国宝)がある。日輪の後光みたいでド派手な豊臣秀吉の兜に対して、隠忍自重して大成した苦労人のイメージにピッタリである。
トラノオシダはチャセンシダ科で冬も枯れない冬緑種。小型で目立たないがごくありふれたシダだ。画像のものは小葉が丸っこくて大きな鋸歯(周囲のギザギザ)を持つ一回羽状複葉である。50㎝以上に成長するものがあり、その時は小葉が伸びて切込みができ二回羽状複葉に変わる。葉裏のソーラス(胞子嚢群)は棒状のものが散らばった感じで独特である。
小型でカワイイ感じのシダの名前がなぜ「虎の尾」なのか不思議だ。以前紹介したサクラソウ科のオカトラノオも可憐な白い花だ。小花が集まった花穂が長く伸びて途中で曲がりちょうどネコ科の動物の尻尾のような形で、なるほどと思う。トラノオシダは葉の描く曲線が尻尾のようで、さらに小葉の並びをトラの縞模様に見立てたのかもしれない。