在位138-161年。五賢帝の4番目だ。アントニヌスが姓で、ピウスは「慈悲深い」という意味の称号である。養父である先帝ハドリアヌスが元老院と対立して死後に断罪されそうになった時、それを阻止して神格化に尽力したためと伝わっている。
デナリウス銀貨を見ていつも思うのだが、当時のコイン製造技術はまさに神業である。直径1.5㎝より小さい空間に浮彫の肖像を信じられないほどの精密さで描いてしまう。23年も皇帝であったので残っている銀貨の数も種類も多い(だから私の小遣いでも買える。)。それらは皆同じ人物に見えるので、肖像は理想化されたものではなく、写真に近いものであろう。
優しそうな風貌からわかるように高貴で物静かな性格だった。しかし、問題には先に手を打ち、いざという時は強力な政治力を発揮したという。帝国全土を巡察した先帝と違い、イタリア本土から離れなかったことでも知られる。しかし、彼の時代は良く治まって大きな戦乱がなく、特記すべき事件も起きなかった。ローマ世界は静穏の中、繁栄を謳歌した。