今頃の多摩丘陵は新芽の季節で、陽光を受けると薄緑色に光って見える。所々ピンク~赤茶色に霞んでいるのはヤマザクラが開花しているためだ。普段は雑木林に紛れているがこの時期は多数自生しているのがわかる。日本の桜の基本原種の一つである。
葉芽と花が同時に開く。個体変異が多く、葉芽の色は赤紫色、褐色、黄緑色などバラエティーに富んでいる。花は基本白色だが、ピンクが掛かったり中心部が赤紫色の場合がある。葉芽の色が映えて、遠目には木全体がピンク~セピア色に色づいて見える。
いろいろな個性を持つ木があるので、ソメイヨシノのように一斉に咲いて散るようなことはない。開花時期は近場では3月下旬から4月上旬で、ソメイヨシノの前後だ。
古来桜といえばヤマザクラである。西行が「願わくば花の下にて春死なん その如月の望月の頃」と詠んだのはこの桜だ。本居宣長の「敷島の大和心を人問わば 朝日に匂う山桜花」も有名だ。その佇まいには、清浄さとか潔さとか日本的な感性に訴えかけるものがある。