この化石が見られるのは神奈川県愛甲郡愛川町の愛川層群の地層である。860-500万年前の新生代新第三紀のものとされる。当時この付近にあったトラフ(浅い海溝、プレート沈み込みの場)堆積物の砂岩、泥岩、火山角礫岩などからなる。現在は丹沢と関東山地の間のやや低い山地になっている。
化石は左右3センチぐらい。暗色の粗い砂岩に入っていたもので、白い貝殻が目立つ。この地層からはほぼこの貝の化石のみが発見されるそうだ。
絶滅種の二枚貝で、イタヤガイ(真珠貝)の仲間の祖先である。欠けているが本来は真珠貝のような形をしていた。独特のスジ(肋ろくという)が放射状に並んでいるのが特徴である。
東北地方を中心に化石が多産し、寒流系の貝とされている。そのためこの地層が堆積した時期は寒冷な気候で、寒流が丹沢山塊の東を流れていたと考えられている。当時は現在の関東地方の平野部は形成されておらず、直接太平洋側の茨城県あたりから親潮が到達していても不思議ではない。
この石には黒い泥岩の破片が含まれており、かく乱された感じだ。海岸近くの貝殻が海底地すべりでトラフの底に運ばれたのだろう。