以前、「博物誌」を著したプリニウスと同時代の、皇帝ヴェスパシアヌス(在位AD(西暦)69-79年)のコインを紹介した。
プリニウスはヴェスパシアヌスの下で「博物誌」37巻を完成したが、皇帝はAD79年に亡くなっている。そのため、長男の皇帝ティトゥス(在位79-81)に奉呈された。
プリニウスはヴェスパシアヌスと同じ79年に亡くなった。有名なベスビオス山の大噴火によりポンペイが埋まった年である。その時プリニウスは帝国の艦隊司令であり、ポンペイに救援に駆けつけて噴火に巻き込まれたものとされる。しかし、ヤマザキマリ+とり・みきさんのコミック「プリニウス」では、避難すれば助かったのに火山の噴火という大スペクタクルに対する好奇心に抗しきれず残った、という説だ。私もそう思う。
画像のコインは皇帝ティトゥスのデナリウス銀貨である。当然だが、その肖像は父親とそっくりでずっと若い。実際、40歳代でなくなっており、在位はAD79-81年の2年3か月でしかない。彼は副帝として父を助け、皇帝としてはポンペイの被災者救済などに尽力し、誠実に公務を行ったことが記録されている。コミック「プリニウス」の最新刊(8巻)にも少し顔を見せている。
このコインが作られたのはAD80年である。古代ローマコインの外周の文字(本物のローマ字!)は裏側にもあり、その描かれた皇帝の業績等に基づく称号の略号が列記されている。そのため文字を読み解くと製造年まで特定できるのである。ヨーロッパでは専門の学者もいる。ちなみに、ローマの代表的遺跡コロセウムは、ヴェスパシアヌスの時代に建築が開始されたが、完成したのはティトゥスのAD80年である。