今年も花の季節が巡ってきた。早春の里山の野草は、小さくて可憐なものが多く、人目につかないが、よく見ると清冽な美があっていつ観ても感動する。これらの花は、咲き続ける路傍の雑草と違って、せいぜい一週間ぐらいで咲き揃って、すぐに実をつけて見えなくなってしまう。春の里山はこのような花が次々と入れ替わる。住宅地の近くの里山や雑木林(の名残)でこのような花を探して歩くのがここ数年の楽しみになっている。
中でも、他の草木の葉が一斉に芽吹き始めるのに先立って、いち早く芽を出し、花をつけ、あっという間に種を作って枯れてしまう種類がある。「Spring ephemeral」春の儚いものと呼ばれる植物である。前回の画像に用いたキクザキイチゲはその仲間である。葉も花も菊そっくりだが、キンポウゲ科で、普通の菊にはない淡い菫青色が何とも清々しい。東北地方の湿原などに群落を作って咲いているそうである。(この写真は、近場のある野草園で撮ったものである。)
今回の画像は、昨年近場の谷戸(やと)で見つけたコケリンドウ(苔竜胆)である。春咲きのリンドウはフデリンドウのように草丈が6-8センチぐらいの小さなものが多いが、これは特に小さく、2-3センチしかない。最初はスミレの仲間かと思ったほど小さくて目立たない花である。鬱蒼とした雑木林の中だったので、陽が当たらず不思議であったが、見上げると真上がぽっかり空いて空が見える。これも樹が芽吹けばふさがってしまうだろう。こんな場所であっても、他の植物が入り込めないので競争にならず、小さくても生きていけるのであろう。