植物(花)や岩石鉱物など大地に根差した自然のものは何でも好きです。また人為であっても古いものには興味があります。東京都と神奈川県の境界ぐらいの郊外都市に在住。周辺の市街地と多摩丘陵を中心として、近場に残された自然を探検しています。時々丹沢山地、相模川流域、三浦半島などにも足を延ばしています。

テリハノイバラ2021

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多摩丘陵の3種類ある野バラのなかで最後に咲く。例年6月初旬である。花は大きめ(径2~2.5㎝)であるが、葉が小さくツルが地を這う性質があるので比較的目立たない。葉は小葉9枚で、毛がなく油を塗ったような光沢(照り)があるのが特徴だ。

 

道沿いに数多く生えている場所を知っている。雑木林の縁で、今の時期は木陰になって薄暗く、他の植物に紛れる感じなのでわかりにくい。ゆっくり見て歩いたが、どれも花も実も付けていない。ようやく見つけたのが画像の花である。

 

いじけたような花で申し訳ないが、自然の状態とはこんなものである。常に気候や周辺の環境に左右され、他の植物と競争になる。肥料もなく病害虫とも対抗しなければならない。野バラは比較的日向を好むが、今は日陰になっているので、花を付けずに明るい方向にツルを伸ばしている状況と思われる。たまたま陽光に恵まれれば多くの花を付けるだろう。今回は葉の美しさに注目してほしい。

 

100年以上前にアメリカなどで、この植物を基に多くのつるバラが作りだされた。現在の豪華な園芸種にも含まれる優れた遺伝子を持っているのである。

キツリフネの花

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以前多摩丘陵で自生のツリフネソウを見た時、宙に浮いたような不思議な造形の花に驚いた。類縁に黄花の希少種があることは知っていたが、ようやく最近出会えた。

 

相模原市の北公園にアジサイを観に行ったとき、植え込みに紛れて咲いているのを見つけた。この公園は段丘崖の雑木林をうまく残しており、アジサイやツリフネソウなど日陰を好む里山の植物には絶好の環境になっている。この花は植えられたものか、自生のものか微妙なところだ。

 

黄釣舩。ツリフネソウ科の一年草。日本全国に自生するが数は少ない。ツリフネソウとは赤紫と黄の花色の違い以外に、花期がやや早く6-8月であること、花の後ろにある距(きょ、蜜が溜まる部分)が丸まらずに垂れる点が挙げられる。

 

画像を見ていただくと、こんな花が細い花柄でつながっていることが信じられないぐらいだ。なお上にぶら下がっている小さなものは、左が若いツボミ、右側が花後の実である。細長い実は大きくなると曲がる。触るとはじけて種を飛ばすので、花言葉は「私に触らないで」である。

ホタルブクロとドクダミ

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今頃の多摩丘陵、林縁や田畑の近くの木陰で咲いている草の花はほぼこれだ。春の野草は花期を終えて種を付け、枯れ始めている。一方夏草が急に伸びてきた。

 

ホタルブクロが目立っている。ちょうどホタルの飛びだす時期と一致するのが面白い。沢山ある花を見ていくと、色合いが一株ごとに微妙に違っていることが分かる。キキョウ科独特の渋い紫色である。この色もホタルの光を思わせる。花びらは和紙で作ったような風合いで、花の筋が折り目のように見える。ホタルを入れる袋とはよく言ったものである。

 

ドクダミは5,6月ずっと咲いている。市街地でも半日陰の湿気のあるところに群生しており、今の時期以外にもよく見かける。外来種ではないのだが、繁殖力が強烈で、丘陵地の湿地などに入り込むと他の希少な植物を追い出してしまう困りものである。種類が違うのかもしれないが、乾燥した丘陵地のものはずっと小柄で花もすぐ終わってしまうような印象がある。

コモチマンネングサ

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多摩丘陵の畑地の近くで咲いていたもの。雑草に紛れても黄色い花は良く目立つ。道端や家の周りにもいつの間にか生えていて、むしってもすぐ生えてくる。以前紹介した近縁のメキシコマンネングサやツルマンネングサはよくプランターなどで植えられている。栽培されないのは雑草的な生態のせいだろう。

 

多肉植物の多いベンケイソウ科。葉は厚ぼったく、根元に2,3個のムカゴ(小さな芽)を付けるので子持ちの名がある。ムカゴは簡単にとれ、地面に落ちると根を下ろしそのまま冬越しする。5,6月が花期だが、一年中みられるので万年草というのか。

 

小さいが花がハデで多肉質。外来種とばかり思っていたが、日本と東アジアに自生する在来種。花は多数付けるが、雄シベは花粉が少なくほとんど種はできない。もっぱらムカゴで増える。雑草だからと迂闊に引き抜いてもムカゴをばらまいて繁殖を助けるだけ。そっと引き抜こう。

6月の木の花

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さて何の花でしょう?実(み)と葉は誰でも知っています。俳句では、花は夏の、実は冬の季語です。

 

ガクが微かに薄紫色の白いツボミが開くと、次々と花弁がめくれていき、6本の黄色いスジのある雄シベが現れる。雄シベの黄色い部分は先の方から黒くなる。中央の白い雌シベは子房がだんだん膨らんでいく…。

 

答えは、あの真っ赤な実のナンテン南天)の花だ。ツボミと花は大きな円錐形の花序にぎっしりついているが白くて印象が薄い。すぐ黒っぽくなるのでますます目立たない。花は直径6-7㎜に対し、実は8㎜と大きい。そのため花と実が同時に付いていると実ばかりが目立ってしまう。

 

メギ科。今まで紹介した中では、ヒイラギナンテンイカリソウが同じ科だ。中国原産の古い渡来植物である。しかし、民家の庭先に普通に植えてあるので和風のイメージがある。近場の野山で自生しているものも見かけるが、鳥が実を啄んで種をまくのであろう。

6月のタチツボスミレ

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3月から咲き始め春の間あれだけ見かけたタチツボスミレ。どこへ行ってしまったのだろうと思っていたら、住宅街の路傍でたまたま見かけた。花はなく、葉緑素が抜けて白っぽくなった葉が印象的だ。種を飛ばした後の茶色く枯れた果穂の殻が残っていた。

 

よく見ると、葉の上に短い柄の付いた大きめのもみ殻のような形ものが乗っている。ほとんど同じ色でわかりにくい。これは「閉鎖花(へいさか)」である。開かずツボミのまま自家受粉して実になる。夏場は授粉してくれる虫が少ない、というか背の高い他の花に負けるので、種を残すことに万全を期すのである。多くの種類のスミレがこのシステムを採っている。また、種にも仕掛けがあるが、それは別途述べたい。

 

冬には地上部が枯れてしまって、地下茎で冬越しする。来年また早春から薄紫の花が見られる。最近は暖冬のせいで冬に咲いているものまであり、それも種を作る。そのせいか近場ではタチツボは年々増える一方である。

梅雨時に咲くハギ

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萩といえば漢字の中に秋が入っており、秋の花の代名詞みたいな植物である。ところが6月初旬の今咲いているものがある。見た目は花も葉もマメ科のハギである。ただ、秋のものはどこか寂しげな風情があるのに対し、元気いっぱいな印象を受ける。場所は前2回と同じお寺の境内なので、明らかに植えられたものだ。

 

名前を調べたが、一筋縄ではいかなかった。確かに梅雨どきに咲くハギの種類はある。ナツハギ(夏萩)の仲間で、ミヤギノハギ(宮城野萩)は今頃咲くのでサミダレ(五月雨)ハギともいう。もちろん五月雨は旧暦で梅雨のことだ。ところが似た種類にケハギ(毛萩)というものがあり、葉が丸っこいところはこちらである。しかしこれらは花穂が垂れ下がる性質がありやはり違う。

 

よく見ると葉に白い縁取りがある。これはチョウセン(キ)ハギという半島に多い種類の特徴だ。日本では対馬に自生する。花穂が垂れ下がらず立ち上がっているところが他の種と違うところである。園芸種としてよく植えられるものなので、おそらくこれだろう。